人間環境学府は6つの専攻に大きく分かれ、各専攻ではそれぞれの高度な専門性をベースとする研究と教育活動が行われています。この多分野連携プログラムは、専門領域の大きく異なる専攻が一つの組織にいるという人間環境学府の特徴を最大限に活かし、このような特徴がなければできないような学際的な取り組みを行い、新しい成果を得ていこうとするものです。
これまでの人間環境学府の取り組み、例えば人間環境学コロキウム、持続都市建築システムプログラム、アジア都市問題を解くハビタット工学教育等に加え、今回の連携プログラムの取り組みは、専攻を超えた教員個々人のより自由で流動的なつながりと恊働を作り出すことによって、未踏な研究領域を探検することを主眼に置いた、新しい学問分野や新たな研究・教育体制作りの種を蒔く試みです。
「多分野連携」をなぜ行うか
「学問」というものはどの分野も、程度の差こそあれ、これまでの歴史や先人たちの積み重ねがあり、それを受け継いでその上に新しい知見を付け加えていくという形で進んでいきます。残されたものをきちんと受け取り、それに新たな積み重ねを行なって次の世代に渡していくというのが研究者の勤めといえるでしょう。これは、地面に埋まっている得体のしれない何か大きな宝物を探るために、先行者が生涯かけて掘った穴の先を、次の世代の者がまた掘り進んでいくという営みと言えます。このような活動を続けることによって我々は単独では到達しえなかった深みにたどりつくことができるのです。
しかし、この「縦穴継承形式」も、長く続いてくるとそこに問題点や弊害が顕れてきます。一つは、様々な分野の研究者がそれぞれに縦穴を掘っていった結果、地面からは「細い縦穴がたくさんある」ということがわかるだけで、一向に埋まっている宝物が何なのかがよく分かってこない、ということが起きなくはないことです。もう一つの問題は、掘っている人にとって、「どんな宝物が埋まっているのか」ということよりも、「自分の掘っている穴からは宝物はどのように見えるか」という関心の方が優先的に扱うものに見えてきてしまうことがある、ということです。それらの結果、掘っている人は、宝物がどんなものであるか、分からない方がいいさえと思うようになってしまうかもしれません。
そこで、もし、ある深さから横向きに穴を掘ってみて、それが他の縦穴とうまくつながったらどういうことが起きるでしょうか。つながった二つの穴は、それぞれが長い年月をかけて異なった方法で掘られてきたものです。そこでは、それぞれに随分と多くのことが得られ、掘り進む方法についての知恵も蓄積されてきたことでしょう。横穴でつながることで、それらの多くの知見が共有され、それぞれの縦穴掘りの方法に新たなアイディアがもたらされるでしょうし、もしかしたら横穴を基点にして第三の縦穴を掘り進むことができるかもしれません。
我々の多分野連携プログラムはそのような横穴堀りを行なうことでいくつもの縦穴を繋ぎ、そこで得られたものをそれぞれの分野に持ち帰って新たな視点を得るということ、そして、これまでになかった新しい学問の流れを作り出してくことを視野に入れています。
これらの新しいと呼ばれる取り組みが功を奏するためには、まず専門性という縦穴がしっかりとしたものである必要があります。ですから、学際教育研究プログラムに参加しようとするみなさんは、自分の専門性を確固としたものにしていく努力は第一義的に必要です。基になる知見がなければ、新しい知見が「新しい」と名乗ることはできません。その上で、お互いの手持ちのカードを出し合って一つの場を作り出していくということが起きるのです。
皆さんはこのプログラムに参加することで、学際的取り組みについて頭で考えただけではわからないことを実感的に理解できるということが期待できます。私たちは、新しい形の、しかもこの人間環境学府でしかできない学問の立ち上げにともに取り組んでいけたらと考えています。みなさんの積極的な参加を期待します。
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