学際シンポジウム
人間環境学府 学際シンポジウム2016 「こころを掘り起こす」
2016年2月14日 13:00-17:30 九州大学箱崎文系キャンパス大講義室
出席者:約170名
司会:藤田雄飛(教育システム専攻)
趣旨説明
藤田雄飛(教育システム専攻)
時代や文化などによって人間のこころの変わるところ、変わらないところについて各分野の先生から話していただくという企画趣旨を説明されました。
変わるこころ/変わらないこころ
橋彌和秀(行動システム専攻)
赤ちゃんを研究対象にすることで、こころの中の「生まれ持ったもの」と「社会的なもの」との関係をみているというお話をされました。また、こころとは外界の情報を処理するためのシステムだという生物学的枠組みを提示され、「人の気持ちがわかった“気になる”」共感という現象がどのように生まれるかが現在の関心の中心にあることも紹介されました。変わらないこころとは本性として持つ「情報処理のバイアス」であり、変わるこころとは、本性(たとえば規範に反する人物を排除する)をハードウェアとみた場合のソフトウェア(規範とはどのようなものか)に当たる部分であるというお話をされました。
こころとモノの境界はどこにあるのか -認知考古学的視点-
松本直子(岡山大学)
日本の縄文時代が専門であるが、イギリス留学時に新石器時代やローマ時代の遺跡なども見てきたというお話から講演を始められました。物質文化を持つことが人間の特徴であり、その物質文化は5万年くらい前から急速に豊かになりその後拡大の一途であるということ、また人間は心の中にあるものを物質で表して固定化する性質があることについて述べられました。そのようなモノとこころの境界はどこにあるのかという観点に関して、従来は考古学の遺物から人間の心まで読み解くのは難しいとされてきたが、近年では物質文化も認知科学の対象となり得ると捉えられるようになってきたことが説明されました。
古代ローマと現代の日本
ヤマザキマリ&とり・みき
おふたりでのトーク形式で「テルマエ・ロマエ」成立の経緯や、ヤマザキマリさんととり・みきさんの「プリニウス」合作のきっかけが「テルマエ・ロマエ」にあったことなどをお話しされました。それぞれの興味に応じてヤマザキ氏→人物、とり氏→背景と分担されていること、プリニウスという人物が変人であるゆえの魅力、資料(史実)でわかっていない点についてフィクションでふくらませること、そのバランスの取り方についてなどもお話しされました。実際の制作過程も画像を用いて詳細に紹介されました。また、制作のための取材でイタリア各地の遺跡を巡ったときの動画もたくさん紹介されました。
古代ローマの「こころ」はディテール(細部)に宿る -プリニウスの舞台としての古代ローマ都市・建築-
堀賀貴(空間システム専攻)
専門が古代ローマ都市建築であること、遺跡をレーザー実測して研究されていることをお話しされました。調査対象としているポンペイ、ヘルクラネウム、オスティアのそれぞれについて遺跡としての特徴を詳細に紹介されました。また、「暴君」とされているネロ皇帝は、後の古代ローマ建築の原型となるような建築を残しているということで、建築という面から見ると天才だったかもしれないというお話をされました。漫画「プリニウス」に描かれた背景は、資料に基づきとても正確に描かれていること、ただ専門家の目から見ると時に細部には「突っ込む」余地もあることなども実際の画像を使いながらお話しされました。
総合討論
浜本満(人間共生システム専攻)
人間はただ共感するだけでなく、相手の思惑を読み取って動こうとする、すなわち深読みをするところがあってなかなか複雑で難しいという視点を提示されました。
その後、登壇者どうしで質問を出し合うなどして、人間の中のファンタジーのあり方、古代ローマのもっていた自由さ、法/規範/哲学/宗教の位置づけ、本能とこころの境界はどこか、日本とイタリアの考古学者の性質の違い、などについて活発な討論が交わされました。
学際シンポジウム2016「こころを掘り起こす」
2016年2月14日(日)13:00-17:30
会場:九州大学貝塚文系地区 大講義室
司会 藤田雄飛(九州大学・教育哲学)
13:00-13:10 趣旨説明
13:10-13:50 橋彌和秀(九州大学・比較発達心理学)
13:50-14:30 松本直子(岡山大学・認知考古学)
14:50-15:30 堀 賀貴(九州大学・古代ローマ建築・都市史学)
15:30-16:20 ヤマザキマリ & とり・みき
16:40-17:30 総合討論 藤田、橋彌、堀、とり、ヤマザキ、濱本 満(九州大学・文化人類学)
参加無料 事前申込不要
「『祖父母の頃』を過ぎると、歴史が平板化する」と柳田國男は述べました。これはたしかに真実の一側面を捉えていて、その世代の人々と日常的に接し、話を聞き、意見を通わせることが、その時代に関する豊かなイメージを築き上げる大きな糧となるのは間違いありません。しかし同時に、そうした対面・直接の経験を超え、「歴史の平板化」に抗いながらもわたしたちは過去から学ぶことができるし、また、そうすることの必要性は、今日さらに強まっているように思えます。
このシンポジウムでは、「ヒトのこころの歴史」への多様なアプローチについて議論したいと思います。こころを巡る様々な研究からは、文化や時代によって柔軟に変化する規範や価値観といった側面と、そう簡単には変化せず一貫した「ヒト特有の」側面との両面があきらかになってきました。こころは化石に残らない。遺跡に埋まっているわけでもありません。では、考古学や古人類学が描き出す街並みやヒトの営為の痕跡から、こころやコミュニケーションについて、どんなことを知り、考えることができるでしょう。一方で、こころの起源に関するヒトに関わる自然科学分野の研究からは、どんなことが分かってきているでしょう。都市史学・認知考古学・比較心理学と、研究を推進している研究者に話題提供をいただきます。
さらに、こうした研究から得られたものを含めた多様な情報群を統合し、当時の人々の思考やそこでのドラマを編み上げる作業と研究との接続についても考えます。古代ローマの大博物学者プリニウスを主人公にした作品「プリニウス」(新潮45に連載中)を合作されているヤマザキマリ氏ととり・みき氏(漫画家)をお招きし、文献や資料、現地取材等々を縦横に駆使しつつ統合して、活き活きとしたひとつの世界をつくり出す創作の過程や、そこで必要な資料と想像力とのバランス、あるいはそれらを超えて必要な要素についてお話しいただきます。その上で、哲学、文化人類学委の研究者にも加わっていただき、現代へと連なる視座について、全体で討論します。
■橋彌 和秀先生
講演タイトル「変わるこころ/変わらないこころ」
ヒトのこころは「身体内外の情報を整合的にまとめて処理するシステム」と言うことが
できるでしょう。視聴覚をはじめとする五感だけでなく、推論や感情も、このシステムの一部です。「こころの進化と発達」という視点からいくつかの論点をご紹介したうえで、Homo sapiensと呼ばれる
霊長類の一種であるヒトが進化の過程で備えてきたと考えられるマインド・セットと、ヒトが生み出
してきた文化・社会的環境との相互作用のなかで生み出されるこころの二側面を整理します。時間や空
間を超えてときにはヒトとヒトとをつなぎ、しかしときには分断するこころの普遍性と多様性について、
我々が現在研究を進めている「共感」に着目しつつお話ししたいと思います。
■松本直子先生
講演タイトル「こころとモノの境界はどこにあるのか―認知考古学的視点―」
「こころ」を情報処理システムとしてみれば、それは脳内にとどまるものではなく、物質文化や環境と一体となったものとしてとらえるべきだと考えるdistributed cognitionやEmbodied cognition、Extended mindといった考え方を紹介しながら、モノからいかに過去のこころにせまることができるかについて検討したいと思います。
■堀 賀貴先生
講演タイトル「古代ローマの「こころ」はディテール(細部)に宿る
―「プリニウス」の舞台としての古代ローマ都市・建築―」
「プリニウス」で精密に描かれる古代ローマ建築群について,建築史学の観点から,解説してみます。講演者が取り組む研究の最新成果も紹介しながら,古代ローマ建築の「こころ」に迫ります。古代ローマ建築といえば,コロッセウムやパンテオンなど大規模で壮麗な作品が思い浮かびますが,これらはすべて「プリニウス」に登場する皇帝ネロより後のものです。ここではネロ時代の建築にさかのぼってみたいと思います。実はネロの残した建築には天才的な側面もあり,後の古代ローマ建築に決定的な役割を果たしています。また「プリニウス」に登場する有名な遺跡であるポンペイやヘルクラネウムはまさにこの時代の建築であり,実物が遺跡として大量に残っているという点で,これほど古代ローマ建築の「リアル」を体験できる時代もありません。建築にはディテールという用語があります。詳細あるいは細部という意味ですが,「神は細部に宿る」という言葉を紹介したいと思います。諸説ありますが,20世紀の偉大な建築家ミース・ファン・デル・ローエのものとして知られ,まさに建築の本質はディテールに宿るのです。近代建築だけでなく,古代ローマ建築の本質もやはりディテールに宿ります。ディテール(細部)を読み解くことでこの時代の建築の本質に迫りましょう。
■ヤマザキマリ先生 とり・みき先生
講演タイトル「古代ローマと現代の日本」
「プリニウス」の連載を2014年1月から続けています。講演では、われわれがこの連載へ至った経緯をお話しした上で、現地取材の動画も紹介しながら、イタリアと日本で実際のマンガ制作をどうおこなっているか原画データを見てもらいながら解説しようと思います。
主催:九州大学大学院人間環境学府
共催:文部科学省新学術研究領域「共感性の進化・神経基盤」
企画:多分野連携プログラム「人間諸科学における進化心理学の位置」
問い合わせ:九州大学人間環境学府学際企画室 coordinator[at]hes.kyushu-u.ac.jp(※[at]を@に変えて送信してください)
※ポスター(PDF)ダウンロードは画像をクリックしてください↓
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