平成25年度 九州大学教育研究プログラム・研究拠点形成プロジェクト

空間の知覚と評価ー感性を切り口とした知覚の基礎研究

成果概要

「空間」に関する感性評価・価値判断・時間知覚に関する4つの課題を平行して走らせ、知覚と感性を総合的に考察する試みを多面的に行った。その結果、「空間」の印象や評価に関わる物理的・心理的特性の一部を明らかにする一方、そうした印象・評価の基盤となる知覚・認知特性あるいは知覚・認知メカニズムに関して議論することができた。

1) 空間配置のよさ・不快感

1-1) 3次元パターンのよさ評価
3次元空間に浮かんだ、または、円盤上に置かれた複数の球体の配置の良さを検討した。変数は水平方向における回転角と観察する際の俯角、ならびに配置の物理構造 (ESS) であった。よさ評価に加え、配置の把握の仕方 (知覚的体制化) についても調べたところ、対称性を知覚しやすい配置 (真上から見た場合や垂直の対称軸をもつ構造) や少ないまとまりで知覚された場合に評価の高くなることが示され、処理負荷の観点から考察された。


1-2) 不快感情を喚起するドットパターン
草間彌生のドット作品に感じられる魅力と不快感の原因が密集度にあると仮定し、彼女の作品をもとに密集度を変えた刺激を作成し、多次元での印象評価を調べた。その結果、密集度が高くなると不快感情も高くなることが示され、内観報告から血液や動物などへの連想が示唆された。結果は恐怖性因子 (生命性) ならびに集合体恐怖症の観点から考察された。

2) 空間位置に付随する価値判断

2-1) 感情形成における視覚と体性感覚の遡求的統合
身体を中心とした上下空間と快・不快感情とは連合しており、上方向への身体動作は快感情、下方向への身体動作は不快感情に結びついているとされる。本研究では、上または下方向への身体動作が、直前に見た画像の感情評価に影響を与えるか否かを検討したものであった。その結果、上向きの身体動作を行った場合の方が下向きの身体動作を行った場合に比べ、画像をポジティブに評価することが分かった。一定時間内に取り込まれた入力情報は統合されて感情形成に寄与することが示唆される。


2-2) 法廷の空間的配置と量刑判断
身体的な処理流暢性が認知判断に影響を及ぼすことが指摘されている。これに関連して、検察官および弁護人の法廷における座席配置と量刑判断の関係を検討した。検察官が右、弁護人が左に位置する写真と、その逆配置の写真を観察後、刑事裁判のシナリオを読んで被告人の量刑を判断してもらった。その結果、右利き参加者では、後者の配置において量刑判断の軽くなることが示され、仮説を支持するものとなった。

3) 数の空間的順序と時間知覚
人は心の中で、数を左から右に大きくなるように配置していることが指摘されている。本研究では、数の並び方とその数列の知覚的な呈示時間との関係を調べたところ、左から右に大きくなるように並べられた数列は、その逆やランダムに置かれた数列よりも、短く知覚されることが示された。空間的な処理流暢性は時間の知覚に影響することが示唆される。

4) 空間評価の文化的差異と普遍性:建築評価における経験と知識の関わり
視覚経験と専門知識が伝統的建築の印象評価に及ぼす影響−日中の文化比較を通して
日本および中国の伝統的建築を対象に、日本人および中国人、また一般人と専門家の印象評価を比較した。その結果、日中いずれの建物においても印象構造は一致すること、特定の建築群において知識や経験の影響が示されること、知識や経験はポジティブ判断を増大させること、専門家が外観が相対的に良くない建築に対しても長所を発見する傾向があることが指摘された。結果は、経験と知識ならびに文化の観点から考察された。

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