特別講演 視覚の冒険~感覚代行と感覚間可塑性をめぐって(公開)

11月4日(日)14:00〜15:30 大ホール

講演者  下條 信輔(カリフォルニア工科大学生物学部/計算神経系)
企画司会 三浦 佳世(九州大学人間環境学研究院)

講演概要
 感覚代行とは,工学的デバイスを用いてビデオカメラの信号をリアルタイムで他の感覚モダリティ(触覚または聴覚)への信号に替えることで,盲人に「視覚機能」を与える方法を指す。侵襲的な手術を伴う「感覚補綴」とは異なり,もっぱら訓練による脳内感覚システム間の可塑性に頼る。
 たとえば,vOICeと呼ばれる装置では,ビデオ信号の縦軸(上下)を音の高低に,横軸(左右)を時間に(左から右への1〜4Hzのスキャン),輝度コントラストを音の強度に変換する。世界で4500〜5000万人の盲人の潜在ニーズがあるにも関わらず,また過去の数度にわたる技術ブームにも関わらず,マーケッティング的に成功した装置は一例もない。感覚代行研究のモティベーションには,そうして実社会のニーズの他に,「見ること」または「知覚すること」そのものの本質を問う基礎的な側面もある。
 私たちカルテックグループはこの装置を用いて健常者/盲人を訓練し,感覚間可塑性の知見を得るとともに,視覚特有の情報処理のユニークな特性をさまざまな角度から定義し,それをvOICeを使った訓練で実現することを試みてきた。ここでは予備的に,1)現象学的,行動学的,2)神経科学的,および3)心理物理学的な証拠を概観する。
 そこでは視覚情報処理の独特の特性,たとえば「自動的で努力を要しない」一面などが,訓練の大きな壁となることがわかってきた。また視覚情報処理の「プリミティヴ」(原初的様態,要素)が,決して点や線などの幾何学的な意味での要素ではないこと,感覚間の「内在的な」(連合学習に依らない,共感覚的な)マッピングが重要であること,なども明らかになる。
 最後に,感覚代行で実現される「クオリア」(感覚の絶対質)について,健常者の視覚とも,単なる聴覚とも異なる「第三のクオリア」であるという観点から,現象学的な接近を試みる。

講演者プロフィール
 東京大学文学部心理学科卒。マサチューセッツ工科大学博士号課程修了(Ph.D.),東京大学助教授などを経て,カリフォルニア工科大学生物学部教授。著賞に「サブリミナル・マインド」「<意識>とは何だろうか」など。中山賞大賞をはじめ受賞多数。専門は知覚心理学,認知神経科学。

共催:九州大学大学院人間環境学研究院
   日本認知心理学会感性学研究部会

シンポジウム1 自己移動感覚の心理学

11月3日(土)13:00〜14:00 大ホール

 視覚誘導性自己移動感覚(以降ベクションとする)の研究は,なぜか日本人への人気が高く,世界に比べても,日本のベクション研究は質が高く量も多い。ベクション研究は,基礎知覚,応用知覚,バーチャルリアリティといった多分野とのインタラクションが可能である点も魅力の一つになっている。そこで,今回,ベクション研究を始めるに際して必要なことなどについてのチュートリアルをはじめに行う。さらに,ベクション研究を牽引する日本の研究者のお二人に,実際の研究現場について話を伺う。新しく,ベクション研究に取り組まれる皆さんだけでなく,既に取り組まれている方にとっても,知っておいて損は無いベクション研究のノウハウについての講演として,役立てていただきたい所存である。
講演は下記のように三部構成になっている。

1.ベクションとは
妹尾 武治(九州大学芸術工学研究院/日本学術振興会)
 ベクションについてのチュートリアル講演を行う。

2.実世界画像を用いたベクション実験
中村 信次(日本福祉大学子ども発達学部)
 これまでのベクション研究では,主にランダムドットやストライプなどの(画像としての意味を持たない)抽象的視覚パターンを用いて,どのような視覚刺激要因が,どのように自己運動知覚影響を及ぼすのかに関し,多くの知見の蓄積がなされてきた。しかしながら近年,PCをはじめとする画像処理機器の高機能化に伴い,従来は困難であった実世界画像(移動カメラから撮影された実際の風景の流動画像)を用いたベクション実験を実施する環境が整いつつある。今回は,最近行った数種の実験の結果を報告し,動画像刺激の持つ意味やその印象といった,実世界画像を用いることによって初めて検討が可能となる要因に関し議論を行う。

3.自己運動に伴う音空間の歪み
寺本 渉(室蘭工業大学情報電子工学系学科)
 自己運動時には聴覚末梢系への入力は時々刻々と変化する。例えば,聴取者が動くことにより音源との位置関係が変化することでラウドネスやピッチに変化が生じる。しかし我々はそのような音情報の変化が生じても,音源位置の変化と音源から発せられる音情報自体の変化を難なく区別し,適切に行動できる。このことは聴覚末梢系からの情報と聴取者の自己運動情報が統合され,音空間知覚が成立していることを示唆する。しかし,実際に我々が自己運動時にどのような音空間を知覚しているのかについてはあまり知られていない。本講演では,最近行った自己運動時の音空間知覚に関する一連の実験を紹介し,直線加速度自己運動時には,実際にはその加速度に比例して圧縮した音空間を知覚していることを示し,議論を行う。


シンポジウム2 情動・共感覚・オノマトペ:感覚間インタラクション研究の展開

11月3日(土)16:00〜18:00 大ホール

企画司会  橋彌和秀  (九州大学)
話題提供者 丸山慎   (駒沢女子大学)
      針生悦子  (東京大学)
      橋彌和秀  (九州大学)
指定討論者 渡邊淳司  (NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
      和田有史  (食品総合研究所)

企画主旨
 ヒトが適応してきた知覚経験のほとんどは単一感覚的なものではありえず,いくつかの感覚モダリティが複合的に経験される。感覚間インタラクション研究は,従来蓄積されてきた各感覚系の研究成果を基盤に,20世紀後半以来大きく進展してきた研究領域のひとつである。今回は,視聴覚間インタラクションの発達的側面に特に焦点を当てた話題提供と,知覚領域からの指定討論を企画した。乳幼児期の感覚間インタラクションに関する発達研究報告をもとに,インタラクションを媒介する音象徴性や情動の可能性について議論し,これらの媒介変数に発達過程への経験が及ぼす作用/あるいは経験と独立な要因を検討したい。渡邊,和田両氏には,それぞれご自身の研究紹介を交えながらコメントをいただき,感覚間インタラクション発達研究の展開について議論したい。
■丸山慎(駒沢女子大学)
多感覚間の知覚統合のなかで「視聴覚間での高低のマッチング」に焦点を当て,その発達的基盤および聴覚的な刺激に内在する冗長な価値について議論する。例えば音の高低は,空間的なそれと同様に「高い,低い」と表現される。このような言語的表現の一致が単なるメタファではなく,多感覚間を横断して知覚される音の内在的特性であることを,我々の「乳児の音高(ピッチ)知覚と空間性」に関する研究等をもとに指摘したい。
■針生悦子(東京大学)
日本語には,"ガチャン"と"カチャン"のような,子音の有声性のみが異なる擬音語ペアが少なからず存在し,一貫して,有声音を使用した擬音語は大きなイメージ,無声音の擬音語は小さなイメージに対応する。このような有声性に対応づけられたイメージは,日本語以外を母語とする人たちにも共有されているのか,日本語環境の中で発達的にはどのように育まれていくのかなどについて,これまで行ってきた研究を紹介しつつ考える。
■橋彌和秀(九州大学)
 乳児における音楽の情動価と対応表情刺激との自発的マッチングについての研究を紹介する。10ヶ月児を対象に,本研究のために新規に作曲した「楽しい/悲しい」音楽を提示開始後,画面に対提示したふたつの中立顔刺激をそれぞれ幸福顔/悲しみ顔に変化させたところ,「楽しい音楽」条件で見られた幸福顔への選好が「悲しい音楽」条件では消失した。このようなマッチングが成立しうる背景としての情動処理過程の関与について議論したい。

シンポジウム3 知覚と脳(公開)

11月4日(日)15:30〜17:30 大ホール

講演者   力丸 裕(同志社大学生命医科学部)
      飛松省三(九州大学医学研究院)
指定討論者 Ger Remijn (九州大学国際教育センター)
企画・司会 中島祥好(九州大学芸術工学研究院)

企画趣旨
 ヒトや動物が環境に適応するために,必要な情報を獲得し,その場であるいは後で利用できる形に整理するような働きが知覚である。知覚を研究する心理学者はどこかで自分自身の心の働きを感ずることを研究の動機としていることは否めず,錯覚や多義的知覚の鮮やかなデモンストレーションが研究の歴史を動かすことが多々ある。知覚研究は,実証的な研究を進めながら,心の入口を手探りするような営みである。
ところが,知覚研究には感覚器官および神経系の研究と不即不離の形で進んできた面もあり,脳の働きと結びつけやすい部分が多い。脳研究の分野において知覚を取りあげるには,精神物理学的な測定やオペラント条件づけなど,心理学者にもなじみ深い手法を取りいれることが求められる。知覚心理学と知覚を扱う脳科学とが新しい問題を共有することによって,「知覚科学」とも呼ぶべき研究分野が生まれることを期待し,脳科学の最前線を行く二名の研究者に話題提供をお願いする。分野の境界を超えた討論の出発点としたい。

「『知覚科学』へようこそ」(仮題)
力丸 裕(同志社大学生命医科学部)
ヒトは,一般的に物理的環境刺激をそのまま知覚するのではなく,物理的環境刺激を中枢神経系で都合良くかつリアルタイムで創り直しながら知覚する。また,可塑性により新しいネットワークを脳内に創り,知覚を創りかえることも知られている。これらはヒトでも動物でも共通している。どのように都合良く創りかえるかをヒトと動物の聴覚・音声データから検討する。また,脳科学から知覚へのアプローチで陥りやすい問題点を考察する。

「脳の働きを探る: 医学と心理学の融合」(仮題)
飛松省三(九州大学医学研究院)
私達は,「脳を読む」,「脳を診る」,「脳を変える」をテーマにして,ヒトの脳の働きを研究している。非侵襲的脳機能計測法には時間分解能 (ms)に優れているものと空間分解能(mm)に優れているものがあり,いずれも心理的行動観察を指標として結果を解釈することが大事であると考えている。

共催:九州大学教育研究プログラム・研究拠点形成プロジェクト「文理融合型の知覚・認知研究拠点」(平成24-25年度)