実践臨床心理学専攻の展開と特色

沿革

 実践臨床心理学専攻は、臨床心理分野の高度専門職業人の養成に特化した専門職大学院として、日本で最初に認可された。修学年数は原則2年で、学生定員は一学年30名である。今までの修士課程とは異なり、修士論文を課さず、臨床心理の理論学習と臨床現場(医療・保健領域、教育領域、福祉領域)と学内総合臨床心理センター内での実習とカンファレンスを中心に学習を行う。規定の課程を修了した者には、「臨床心理修士(専門職)」の学位が授与される。こころの問題の多様化に伴い、その多様化に対応できる臨床心理学の高度専門職業人の輩出が社会的要請であることを踏まえ、実践臨床心理学専攻では、「様々な臨床心理現場との連携を深めつつ、種々の臨床現場に即応できる臨床心理分野の高度専門職業人の要請を教育の目的としている。
 さらに、社会の多様化するニーズの変化に即事に対応できるように、2006年10月に、実践臨床心理学専攻の教員と卒業生の有志で、「NPO法人九州大学こころとそだちの相談室(通称こだち)」を福岡市早良区の西新プラザに開設した。九州大学の卒業生である臨床心理士を中心に、事務局を置き、カウンセリングや卒業後の研修講座、市民対象の研修講座・講演会などを行っている。また、同専攻とこだちの連携としては、こだちで行われる面接の陪席、中・高校生の居場所活動の運営などを同専攻の大学院生達が担っている。実践臨床心理学専攻は、社会と連携しながら、社会が求める臨床心理士の養成のために、カリキュラムや授業方法の改善などを日々、行っている。

研究

 実践臨床心理学専攻における研究は、心理臨床の各実践領域に密着したものと、各教員の専門領域に関連したものが行われている。いずれも実務家養成と結びついた研究であることが特色である。実践領域に密着した研究としては、教育領域では教員のストレスと組織文化との関連、スクールカウンセラーと学校の連携についての研究、福祉領域では児童虐待や子育て支援に関する研究、医療領域では精神科等医療機関における臨床心理活動に関する研究が行われている。各教員の専門領域に関連したものとしては、障害児・者の心理リハビリテイションにかかわる国際比較研究、発達障害児の集団心理療法に関する研究、来談者中心療法にもとづく集団や個人へのアプローチの研究、心理アセスメントに関する投影法(特に風景構成法)の研究、学生相談の方法と実践に関する研究が行われている。また臨床心理実習など専門教育のあり方について、他大学と共同での研究も実践臨床心理学専攻では行ってきた。

教育

 実践臨床心理学専攻の教育の特徴は、理論学習が中心となる講義・演習と体験学習が中心となる実習のバランスを考慮したカリキュラムが設定されていることである。「臨床心理学基幹科目群」12科目20単位、「臨床心理学展開科目群」9科目16単位に加えて、選択科目「臨床心理学基本科目群」10単位を合わせて、修了に必要な46単位以上を取得することになっている。選択科目は「臨床精神医学特論」「産業・組織臨床心理学特論」など30科目以上が開講され、学生が幅広く、深く学ぶことができるようになっている。学内附属施設である総合臨床心理センターにおいては、心理教育相談室、子ども発達相談部門、生涯発達支援部門を設け、不登校をはじめ、様々な心の相談援助活動や発達障害など子供の心身の発達相談援助活動を実施し、大学院生の学内実習の場としている。また、学外実習においては、臨床心理の三大領域(医療・福祉・教育)の全てで実習が行えるように学外の実習施設の確保を行うと共に、実務経験豊かな「実務家教員」によるきめ細やかな実務教育を行っている。これらのカリキュラムにより、修了者は財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する受験資格が得られ、更に事例研究論文をはじめとした臨床心理学研究論文を修了要件としているため、資格試験における「論文試験」が免除される。

組織運営

 実践臨床心理学専攻長を中心に、12名の教員で組織される。11名が臨床心理士、1名は精神科医である。教員会議を月に1回行い、その会議で、専攻の主要事項は決定される。実践臨床心理学専攻には人間環境学府附属の総合臨床心理センターがあり、心理教育相談部門・子ども発達相談部門・生涯発達支援部門の3部門がある。心理教育相談部門では、主に不登校や成人の対人関係の問題などをカウンセリングや遊戯療法などで治療に当たっている。子ども発達相談部門では、発達障害児童・生徒の集団心理療法や個人療法を行っている。生涯発達支援部門では、大人の発達障害の方のカウンセリングや臨床動作法による個人心理療法を主に行っている。総合臨床心理センターでの面接は、大学院生の学内実習の場となっており、修了までに3ケース以上を担当することになっている。総合臨床心理センター長のもと、それぞれに、室長(教員)と主任・副主任がおり、ケースマネジメント・ケースカンファレンスを行っている。
 年度はじめには、各部門でオリエンテーションを行い、部門の概要・ケースの持ち方など大学院生に丁寧に説明を行っている。また、後期には、総括シェアリングを行い、改善されるべき点は、まとめて、次年度以降改善していくシステムをとっている。

学生生活・卒業生の動向

 こころの専門家としての専門知識・技法を学ぶ講義・演習に加えて、実践力を学ぶ学内・学外での実習のため、学生生活は非常に多忙である。しかし、学生たちの学業・研究への姿勢は、高度職業人としての臨床心理士を目指すという目的が明確であるため、大学院授業以外に各研究会への参加や臨床現場へのボアランティアや非常勤心理士として活動している学生も多いなど、積極的であり切磋琢磨している。公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会試験の合格率は、専攻開設以降88%~97%となっており、全国平均65%を大きく上回る成果を上げている。卒業生の進路は、就職が8割、博士課程等進学が2割である。就職については、ほぼすべてが、臨床心理学関連領域である。医療領域では、精神科病院が中心であるが、小児科、産科など活動領域は広がってきている。教育領域は、主としてスクールカウンセラーや不登校児の適応指導教室であり、福祉領域では、児童相談所や情緒障害児短期治療施設、児童養護施設、発達障害児療育センターなどとなっている。さらに家庭裁判所、少年鑑別所などの司法領域への就職もある。
 また、2007(平成19)年に卒業生や臨床心理学講座教員等により「NPO法人九州大学こころとそだちの相談室」を設立し、大学院生の実習や卒業生の心理臨床活動の場とするとともに、研修会等を実施しキャリア支援を行っている。

社会との関わり

 現代は、いじめや不登校、ひきこもり、うつ病や自殺、DVや児童虐待、犯罪や災害による心的外傷後ストレスなどこころの問題が複雑化・多様化している。また障害児・者や高齢者との共生や支援などに対する社会的要請も年々高まっている。このような「こころの時代」において、実践臨床心理学専攻では、長年に渡り九州大学総合臨床心理センターにおいて、一般の方を対象とした心理援助活動を行っている。また、「NPO法人九州大学こころとそだちの相談室」では、臨床心理士による相談活動や、不登校、ひきこもりの居場所活動などを行っている。また、このNPOとの共催により、2007年度~2009年度までの3年間、文部科学省受託事業「社会人の学び直しニーズ対応教育推進事業」として対人援助職を対象とした専門性を高めるためのスキルアッププログラムを行った。また、その後もNPO法人九州大学こころとそだちの相談室と連携して臨床心理学教員がそれぞれの専門分野を生かして一般市民向けの臨床心理学講座を毎年行っている。
 更に、2011年3月におきた東日本大震災に際しては、臨床心理学教員が一丸となって協議を行い、同年4月2日から教員と大学院生による「ほっと広場九大」として震災で福岡に来られた方のこころの支援を行った。

国際交流

 実践臨床心理学専攻では、2005(平成17)年度に韓国・公州大学校特殊教育大学院との学術交流および学生交流協定を締結した。これにより教員レベル、学生レベルそれぞれの交流として相互訪問等を行っている。また、インド防衛省心理学研究所とも連携を行い、客員教授の招聘を行っている。