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Q&A
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    26回大会に向けて:グループ・アプローチの多様性と可能性

大会長 野島一彦(九州大学大学院人間環境学研究院)

 このたび本学会の九州における3回目の大会をお引き受けするにあたり、大会長として大会テーマを「グループ・アプローチの多様性と可能性」ということで設定させていただいた。このテーマは抽象性が高く漠然としているだけに、ある意味でロールシャッハ・テストのように、会員の皆様にいろいろなことを連想させるのではないかと思う。本稿では、このテーマから私自身が連想するものを述べさせていただきたい。

 ちなみに私は、グループ・アプローチという用語を、次のように定義している。「個人の心理的治療・教育・成長、個人間のコミュニケーションと対人関係の発展と改善、および組織の開発と変革などを目的として、小集団の機能・過程・ダイナミックス・特性を用いる各種技法の総称」。これには、グループ・サイコセラピィ、サイコドラマ、グループ・カウンセリング、グループ・ワーク、集団指導、集中的グループ経験などが含まれる。

 別の表現をすれば、治療を目的とする<セラピィ・グループ(therapy group)>、支持を目的とする<サポート・グループ(support group)>、訓練や教育を目的とする<トレーニング・グループ(training group)>、心理的成長を目的とする<グロース・グループ(growth group)>、相互に助け合うことを目的とする<セルフヘルプ・グループ(self help group)> などはすべてグループ・アプローチということになる。

 本学会の名称に使われている「集団精神療法」と言うと、医療保健領域における患者を対象として行なわれるグループという意味合いが強くなる。しかし、ここではそれはグループ・アプローチの一部であると位置づける。つまり、グループ・アプローチという言葉を、かなり広い概念として使うことにしたい。グループ・アプローチという広い視点から、グループの多様性と可能性をについて考えることは、本学会で主に扱う「集団精神療法」の広がりと深まりに役に立つのではないかと思う。

 

 私のグループ・アプローチとの出会いと取り組みは次のようである。私は1966年に九州大学教育学部に入学し1970年に卒業したのであるが、学部時代にはいろいろなグループ・アプローチにふれる機会があった。当時、九州大学にはわが国で唯一のグループ・ダイナミックス(集団力学)講座があり、社会心理学者のクルト・レヴィンの流れを汲む三隅二不二先生(PM理論の提唱者)を中心に、池田数好先生(1973年にビオンの集団精神療法の本を翻訳出版)、前田重治先生(精神分析家)、関計夫先生(1965年に『感受性訓練』を出版)らが協力されて、全国の大学の厚生補導関係者を集めてのTグループが行なわれており、私はその様子をワンサイド・ミラーで観察させていただいた。また実習先の精神科病院では、サイコドラマを見学させていただいたが、いきなり参加をさせられて面食らったこともあった。遠藤辰雄先生は、矯正施設における集団精神療法の実践と研究をしておられた。

 私がグループ・アプローチに実際に取り組むようになったのは大学院に入ってからである。私は学部時代にはクライエント中心療法で有名なカール・ロジャースが好きで、前田先生から、当時、九州大学教養部におられた村山正治先生を紹介していただいた。村山先生にお会いして、ロジャースはこの頃はエンカウンター・グループに力を入れているということを教えていただき、魅力を感じ、1970年からエンカウンター・グループに参加するようになった。1972年の修士論文はこのテーマで書いた。1974年にはカリフォルニアで開催されていた(エンカウンター・グループのメッカの)ラホイヤ・プログラに参加して、憧れのロジャースと出会うことができた。以後もエンカウンター・グループの実践と研究を続け、もう38年になるが、その魅力はいまだに褪せることがない。

 健康な人を対象とするエンカウンター・グループをやっていくうちに、これを精神科病院で患者(統合失調症者)を対象として実践できないだろうかと思うようになった。そして(私が1972年以来、非常勤臨床心理士として働かせていただいていた)牧病院で、19874月より「心理ミーティング」という名称で毎週、実行する機会が与えられた。これはもう22年目に入り、もう少しで1000セッションを迎える。オーソドックスなエンカウンター・グループよりサポートが多めなので、私はこれをエンカウンター・グループチックなミーティングと呼んでいる。このグループについては毎年、本学会で発表してきており、「まだやっているの」と言われることもあるが、あきることなくやりがいを感じている。


 私は1996年から九州大学の教員となったが、野島研究室では学生にグループ・アプローチの体験をさせること、エンカウンター・グループのファシリテーターとして養成すること、グループ・アプローチの実践をさせることに熱心である。学部では、年に半期は構成的エンカウンター・グループの実習をやる。年に2回は、学部生,院生等を対象とした2日間の「エンカウンター・グループ in 九大」を開催する。

 院生には、修士課程の2年間をとおしての養成プログラムを用意している。入学前に、一般のエンカウンター・グループに参加させる。1年の前期は、「エンカウンター・グループ in 九大」のメンバー体験をさせる。1年の後期は、学部の授業(構成的エンカウンター・グループ)のコ・ファシリテーター体験、「エンカウンター・グループ in 九大」のメンバー体験、23日のエンカウンター・グループのコ・ファシリテーター体験をさせる。2年の前期は、「エンカウンター・グループ in 九大」のコ・ファシリテーター体験をさせる。2年の後期は、「エンカウンター・グループ in 九大」のペア・ファシリテーター体験、23日のエンカウンター・グループのメイン・ファシリテーター体験をさせる。このような体験をさせるとともに、体験の振り返りのために月に1回のエンカウンター・グループ研究会、年に1回のエンカウンター・グループ・セミナーを行なう。

 野島研究室の院生、OBは、次のような実に多様なグループ・アプローチの実践と研究を行なっている。小学生のための夏休みを使った構成的エンカウンター・グループ、小学生のための授業時間を使っての構成的エンカウンター・グループ、高校の入学式直後の新入生約500名を対象とした構成的エンカウンター・グループ、高校生のためのベーシック・エンカウンター・グループ、23日の看護学生の構成的エンカウンター・グループ、日本人と留学生の異文化交流のエンカウンター・グループ、日本語学校における中国語による中国人就学生のためのエンカウンター・グループ、中国語による中国人就学生・留学生のグループ、臨床心理系院生のためのエンカウンター・グループ、12日の電話相談関係者の構成的エンカウンター・グループ、不妊で困っている女性のためのサポート・グループ、乳幼児を持つ母親のためのサポート・グループ、母国語(韓国語、中国語)による保育園児・小学生の保護者のグループ、女性同性愛者のためのサポート・グループ、不登校児の母親のためのグループ、引きこもり者のためのサポート・グループ、老人保健施設における構成的エンカウンター・グループ、がん患者の家族のためのグループ(準備中)、緩和ケア病棟における看護師のためのサポート・グループ、精神科病院におけるアルコール依存症者のグループ、精神科病院における統合失調症者のグループなど。

 私自身のグループ・アプローチの実践と研究、院生、OBなどのグループ・アプローチの実践と研究をとおして、私はグループ・アプローチの多様性と可能性を強く感じさせられている。また、私は毎年、「わが国の『集中的グループ経験』と『集団精神療法』に関する文献リスト」を作成・配布(インターネット公開=http://nojima2.hes.kyushu-u.ac.jp/)しているが、その作業をしていると、絶え間なくいろいろなグループ・アプローチの実践と研究が展開されていることを知り、グループ・アプローチの多様性と可能性を強く感じさせられる。

 私自身はまだ実践していないが、できれば取り組んでみたいこと(ある意味で夢)は、「人間の業」とでも言えるような宗教対立、人種対立、政治対立などへのグループ・アプローチである。私が尊敬するロジャースは、アイルランド紛争が続いている状況の中で、北(カトリック)と南(プロテスタント)から参加者を集めてエンカウンター・グループを行なった。このエンカウンター・グループの記録は、『鋼鉄のシャッター』という題で字幕スーパーのビデオが作成・販売されている。また彼は、南アフリカで白人と黒人を集めたエンカウンター・グループを行なった。さらに彼は、中央アメリカでは各国の政治家を集めたエンカウンター・グループを行なった。グループ・アプローチは、このように言わば「平和」の問題にも貢献できる可能性を秘めているように思われる。

 身の丈にあったところでの取り組みとしては、まだ私自身は十分には実践していないが、次のようなことに力をいれていくことがこれから必要であると考えている。@社会状況が少子高齢化ということを踏まえて、子育て支援のグループと高齢者のグループは非常に大事であると思う。A国際化社会ということを踏まえて、異文化交流のグループ、日本在住外国人の母国語によるグループも大事だと思う。特にわが国は留学生30万人計画を打ち出しているだけに、就学生・留学生のメンタルヘルスのためのグループ・アプローチが求められよう。B糖尿病、腎臓病などの慢性疾患の闘病生活における心理的サポートのためのグループも大事だと思う。C犯罪被害者支援とともに加害者の更生のためのグループ、また犯罪予防のためのグループも求められよう。Dいろいろな領域における対人援助職はバーンアウト寸前であるように思われるので、その防止のためのグループも大事である。

 グループ・アプローチは、いろいろな領域のいろいろな人間の活動・生活の場において、多様性と可能性があるというのが私の実感である。本稿では、「グループ・アプローチの多様性と可能性」ということで私が連想することを述べてきたが、会員の皆様がこれに「触発」されて、それぞれの方の連想が広がり深まることを願いたい。そして、それらを26回大会で語り合えたらと思う。さらにその中のいくつかが実行され、人間と社会に貢献することになればと思う。

(『集団精神療法』第24巻第2号に掲載予定)


日本集団精神療法学会第26回大会事務局:

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